ここ数年、『日本の名医100人』みたいなタイトルの本を書店で見かけるようになりました。いわゆる名医本ってやつです。大手の出版社が上梓した名医本は、でかでかと新聞広告が打たれるから、書店に足を運ぶ習慣のない方でも一度くらいはタイトルを目にしたことはあるでしょう。
日々量産される「名医〇〇人」と題したムック本
わたしも、そこそこ健康を気にする年頃になりましたので、期待と興味を持ちつつトップからページをめくるわけです(決して歯科のページからではない)。すると、大学病院や地域の中核病院が名を連ねていることがわかりますが……正直、がっかりでした。そんなんだったら、なにも名医本を買う必要なんてない。最寄りの拠点病院に行きゃあいいだけのこと。どうして、こんな陳腐な記事になったのか私なりに考えて見ましたが、巻末にそのヒントが載せられていました。そこには厚労省が開示している手術の成功率とか、特定の疾患に対する認定医であるかどうかのデータが病院ごとに載せられていて、どうやらこれを元にランキングを決めているフシがありました。つまり“誰かのお墨付きがあれば名医”という判断らしく、これでは他人がこしらえた弁当を温め直して提供するようなもの。医療には門外漢の編集者が、ロクに取材もしないでサクッと決めたのではないかと疑ってしまいます。巻末の数字データにしたって、どこまでどうだか。仮に手術成功率100%という病院と70%という病院があったとしましょう。どちらへ行くかと問われたら、わたしは迷わず後者を選びます。何故かって? 成功率70%ということは、30%の不成功を真摯に受け止め、それを敢えて公表している病院ですから公明正大で信じられそうな気がします。と同時に、まだまだ上を目指して頑張るというアグレッシブな心意気も感じますしね。だいたいが成功率100%なんて、ありえませんって。症例には難易度がつきまといますし、まとも医療人であればあるほど、ヒューマンエラーをゼロにすることはできない事を承知しているはず。そこんところ認識し、しっかり対処している病院ほど名医にふさわしいと思うのです。逆に成功率が限りなく満点に近い病院には、なんとなく欺瞞を感じてしまいます。失敗例を隠してんじゃないのかってね。大学や専門学校が喧伝する、国家試験合格率○○%に近いものがありますよ。試験に受かりそうもない奴はハナから卒業させないとかね、あんなもの、データの取り方でどうにだってなりますから。
名医本の情報源はなにか
さて、歯科のページですが、これがまた不可解なんです。医科と同様、掲載されているのは、ほとんどが大学病院の歯科。データもありましたが、学会の認定医の名簿ばっか。やはり歯科のことをご存じない方が編集しているようです。ま、これはよしとして(?)、問題なのはそのあとに続くPRのページ。これがまた、後半ページのほとんどを歯科医院のPRが占めているんです。医科はあっても美容外科がちょこっと。しかもインプラント、矯正、ホワイトニングのような自費中心の先生ばかりが目立つ。こうなってはもはや名医本ではなく、完全なる歯科のPR冊子ですな。あれほど立派な装丁のムック本が、わずか7~800円で売られている理由を考えていただきたい。 とは言っても、価格がついている商品であるわけだから、毎年、同じ内容を掲載していては売れるはずも無く、昨年度版と今年度版では内容を変えなくてはいけない。つまり年を重ねれば重ねるほど、日本の名医は100人×名医本の数だけ積み上がっていき、しまいには全国どこでも名医だらけになるわけである。まことにめでたいこと……ではなく、これこそまさにステルスマーケッティングの真骨頂。わたしもかつて、大手の新聞社(の子会社)から、ゼニを払えばPR記事を載せてあげるよとのお誘いを受けたけど、放っておいた。だって、あんな薄っぺらな情報を元にやってくるリテラシーの低い一見さんを診るより、自分をホームドクターとして信じて定期健診に応じてくれる患者さんのためにこそ時間を費やしたいですから
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