お客様はアリかもしれないが、患者“様”はないわ~
歯医者は人間を直接的に扱う職業ですから、客商売にほかなりません。ホンネの部分では、自分の仕事を商売とは呼びたくはないし、ましてや患者を客扱いしたくもない。もっと崇高な言い方をすれば、歯医者を含めた医療は人助けであり、患者さんたちは迷える小羊というわけ。だけど昨今の風潮はそうなっていないし、世間様もわれわれを商売だと思っている(実際そうなんだけど)し、自分らを“お客様”あつかいしてほしいと思っているフシがございます。
すべての患者がそうだとは申しませんけど、中には勘違いが甚だしい方も時にはお見えになる。モンスターペイシェントとまではいかないまでも、そこそこトンデモ患者が飛び込んでくるケースは多いですよ。わたしは患者を“様”づけでなんて呼ばないのだけれど、自分は患者様でござい、丁重にお迎えしやがれコラッ!みたいな感覚の人が多いのはどうしてなんでしょうねえ? 特に盆暮れなんかにゃ、痛いからと言って飛び込んでくる患者も少なくありませんわね。それも、かかりつけの患者さんならいざ知らず、ほぼヒャクパー初見の人。歯医者ならどこでもいいという感覚の持ち主ですな。正直、ゾッとします。痛みが出るまでに、なんらかの不都合はあったはず。それを年末のどん詰まりになるまで放置したんですよねきっと。そんな健康管理を怠った責任を丸投げされるんですから、こっちもたまったもんじゃあない。しかも短時間で痛みを取ることを期待している。思わず「無理っ、帰ってくれっ!」と叫びたくなる。だけど、医療には『応召の義務』ってのがありましてね、どんな患者でも正当な事由無しに診察をことわってはいけないことになっておるんです。そんなわけで、一応は拝見すると伝えする。だけど予約の患者が優先だと告げると、
痛みを訴える患者が、必ずしも急患ではない
「痛がっている患者が優先なんじゃねえのかよ?」
とのたまう。こっちも慣れたもんで、あんたがもし予約患者だったら、痛いと言って飛び込んできた奴を先に診ていいのかい? そう告げると、約半数が捨てぜりふを残して去り、残りの半数が渋々引き下がる。が、その半数も10分も経たないうちに、受付から仏頂面を突き出して、
「いつまで待たせんだ」
と来たもんだ。バカヤロ、こちとら、てめぇを診るための時間を作るべく、せっせと予約をこなしてんだよぉ。だけど治療レベルを落とすわけにはいかないから、時間の余裕は定期預金の利息みたいにしかたまっていかない。ですからウチの場合、飛び込みの患者を数時間待たせるなんてザラですわね。この時点でさらに半数が脱落。それでもなんとか時間をこしらえて、飛び込み患者を招き入れる。レントゲンを撮って、口の中を診察(法的義務です)していると、
「そんなのはいいから、さっさと痛いところをなんとかしろよ。俺、このあと、仕事場の大掃除しなきゃなんだぜ!」
知ったこっちゃねえよ、と胸の内に叫びつつ、そこはグッと堪える。こんな御仁は一秒でも早く帰ってもらいたいからだ。なんかと応急処置をして治療を終える。痛い飛び込み患者は、かなりの確率で重症であることが多いのですが、後日、継続的な治療が必要であることを説明しても、彼らとは二度とまみえることは無い、そんなもんです(合掌)。 ひとたび治療してしまえば、患者がどんなに不届き者であっても責任が生ずる……。いやー、考えただけでも憂鬱になります。歯医者での治療のほとんどが、ちいさな手術と同じなんですよ。だから時間的にも体力的にも余裕ってもんが必要。機械のように部品を取り替えりゃあなんとかなるものでもなし、某アニメの名台詞「慌てず急いで正確にな!」の3要件を共存させることなど、予約外で飛び込んできた患者には難しいこと、ここに断言しておきます(つづく)
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