良い歯医者は、やり直しをいとわない

良い歯医者の条件
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カーステレオからカセットテープの挿入口が駆逐されて久しいですが、このたび車を購入するにあたり、ドライブ中に楽しむ音楽はすべて、スマホに蓄えられた音楽配信データを使用することになりました。カセットはもちろん、エアチェック、MD、CDチェンジャーという言葉はもはや死後と化し、アナログレコードでハイファイオーディオ(これも死語!)の入門を果たした世代としましては、なんとも複雑な気分であるわけです。ま、使ってみれば、とっても便利なんだけどね。 

とは申しましても、わたくし、そこそこ忙しいのでスマホに楽曲をダウンロードする時間すら惜しみ、ドライブ中に聴くのはもっばらFMラジオであることが多いんです。特に土日の午後なんか最高! 福山雅治さんや山下達郎さん、ユーミンといった有名どころがMCをつとめる番組が目白押しで、気がつけばネットでFMが聴けるアプリをスマホにインストールしておりましたよ。 

ところで山下達郎さんですが、わたしは彼のファンではありません。彼のヒット曲くらいは歌える、というていど。なのに彼の番組を聴くようになってからというもの、いつの間にか山下達郎という固有名詞に鋭く反応し、耳目を向けるようになっておりました。そのなかでとりわけ記憶しているのが、とあるライブでのエピソード。当時スマッシュヒットを飛ばしていた『ラブランド・アイランド』が演奏され、会場をおおう熱気は最高潮に達しようというとき、達郎さんは突然、「あ~ゴメン、ゴメン、間違えた!」と言って演奏を中断。面食らったのはスタッフ、観客、つまり達郎さん以外の全員。だれひとりとして、どこをどう間違えたのかわからずにポカーン。そして何事もなかったようにテイク2を歌い終えたとさ。一生かかっても聴ききれないCDを所有しているほどの音楽ツウらしいエピソードなんだろうけど、誰も気にも留めないミスを糊塗したまま演奏を続けるのは、彼の人並みならぬプロ意識がそれを許さなかったのでしょう。この“やり直しをするレベル”をどこに設定するかは、ミュージシャンにしろ、われわれ医療人にしろ悩ましい問題ではあります。 

歯医者がやりなおしを決意する条件 

やり直しを決断する姿勢には、ざっくり分けて次のふた通りの考え方があると思います。 

①及第点に達していれば、やり直しをしない。 

たとえば金属の詰め物を入れようとするとき、入るには入るけどゆるゆるだが強力な接着剤を使えばしばらくもちそう、とか、歯との境目にちょっぴり不適合があるけど、端っこを削ったり足したりすれば段差はなくなる、みたいな状況でしょうか。もしそうだったとしても、患者さんにはわからないでしょうね。60点主義とでも申しましょうか、満点に足りない40点の部分は、未必の故意と言えるかもしれません。 

②プロとして、自分の仕事に納得できなければ、やり直しをする。 

この場合、たとえ患者にわからないレベルであってもやり直しをするわけですから、歯科医師としての良心が問われることになります。かぎりなく満点に近づけようとする姿勢であるわけで、山下達郎さんの場合はこれなんでしょうね。 

やり直しをためらう条件 

もちろん、やり直しにはコストがかかります。技工料金がその最たるもの。やり直しを技工士さんにお願いすると、最低でも正規料金の7割ほどの手間賃を要求されます。ですから保険で銀の詰め物をしてやり直ししたら、まったくペイしないどころか赤字は確実。ちなみに保険の入れ歯は、やり直さなくたってハナから赤字だ。 

時間的なコストも痛いですな。もう一度来てもらうことになるわけで、そのために予約時間を確保せねばならない→他の患者を診れない→売り上げが減少。それでも良心的な歯医者は、涙を呑んでやり直しをするのです。 

そして無視できないのが心理的コスト。患者に無駄足を踏ませてしまううしろめたさから、多少のことには目をつぶる先生も恐らくいることでしょう。忙しい患者、口うるさい患者、できるだけ早くいなくなってほしい嫌な患者、いろいろいるわけですから。だけどね、やり直すことを告げられたとき、「大丈夫かよ、この歯医者」ではなく、「少しでもいいものを入れてくれようとしているんだ」と思ってほしいんです、少なくともわたくしめの場合は。不都合のあるものを無理やり入れるより、潔くやり直したほうが、ずっと胸を張っていられますからね。 

論語に『過ちては改むるに憚ること勿れ』という名言があり、不肖わたくし、座右の銘のひとつにしております。悪い歯医者は、やり直しをしないどころか、失敗すら認めようとしないんじゃないのかな。不祥事が発覚した○○委員会とかが、記者会見なんかで、当方に誤りはなかったと開き直るみたいに。あ~みっともない。 

負けや失敗を認めるのは正直辛い。だけど、失敗に顔を背けているより、ずっと清々しい態度だとは思いますよ。なにより失敗をリカバリーできたあかつきには、プロとしての自信が回復できると同時に、精神衛生にすこぶるよろしいのでありますから。 

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